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蝸牛角上

読書メモ。あらすじ。というよりダイジェスト?

レ・ミゼラブル その29 (ビクトル・ユーゴー作 豊島与志雄訳)

貧富不明の男を泊むる不快

 宿屋に帰り着くと、コゼットはさっそくテナルディエのかみさんに、帰りが遅い、と叱られそうになった。

 コゼットは一緒に歩いてきた男を紹介し、それを回避した。

「あの方が、泊めてもらいたい、って来ています」


 テナルディエのかみさんは一瞬、愛想をよくしかけたが、男のみすぼらしさを見て、すぐにひっこめた。

「たいへんお気の毒だが、部屋があいてませんよ」

「物置でも厩でもよろしいのです」

「40スーですよ」

「承知しました」

 しかし、通常は20スーなのだった。


 男は、テーブルの席についた。

 ぶどう酒をなめながら、異様な注意でコゼットを眺めだした。


 コゼットは醜かった。

 陰鬱な顔つきをしているうえに、やせて青ざめていた。

 破れた着物を着ていて、その一挙手一投足にはつねに恐怖の念が現れていた。

 恐怖のために彼女は、できるだけ小さく縮こまり、ようやく生きるだけの息をついていた。

 恐怖の念に強く支配されているコゼットは、濡れている着物をかわかそうともせず、黙って編み物の仕事をはじめていた。


 テナルディエのかみさんは、コゼットにパンを買ってくるように言いつけていたのを思い出した。

 コゼットはそのことをすっかり忘れていた。

 さらに代金の15スーを紛失しているのに気づいて、石のように固くなった。

 かみさんが鞭に手を伸ばした。

 男が割って入った。

「さきほど娘さんのポケットから」

 落ちたのだと、男は20スー銀貨をかみさんに渡した。

「そう、これです」

 かみさんはひきさがった。


 テナルディエ夫婦のふたりの娘、エポニーヌとアゼルマが部屋に入ってきた。

 かみさんはふたりを好きに遊ばせた。

 ふたりが人形で遊ぶのを、コゼットはぼんやりと見入った。

 かみさんがそれを咎めた。

 またもや男が割って入り、5フランをかみさんに渡して、コゼットを編み物仕事から解放した。


 エポニーヌとアゼルマは人形を放り出し、猫に夢中になった。

 コゼットはこっそりと人形を拾って、抱きしめた。

 エポニーヌとアゼルマがそれに気づいて、かみさんに告げ口した。

「コゼット!」

 かみさんに怒鳴られて、コゼットはその日はじめて涙をこぼした。

 男は宿屋の外に出て行った。

 素敵な人形をかかえて、男は戻ってきた。

 コゼットが「奥様」と呼んでいた、村の子供たちあこがれの人形だった。

「お前さんのだ」

 男はコゼットに「奥様」を渡した。

 コゼットは「奥様」を椅子の上に置くと、自分は地べたに座って、じっと見入った。


 服装はみすぼらしいが、この男には金がある。

 そう踏んだテナルディエの亭主は、男をいちばん上等な部屋に泊まらせた。

「私には厩でも同じだったのに」

 男はつぶやいた。


 亭主が寝室に入ると、さきに床についていたかみさんが言った。

「明日になったらコゼットを叩き出してしまいますよ」


 一方、上等な部屋にひとりになった男は、足音がしないように靴をぬぐと、部屋を出た。

 階段の下の隙間に、コゼットの寝床はあった。

 そばに扉があり、かなり広い部屋に通じていた。

 テナルディエ夫婦の子供たちの寝室だった。

 火の消えた暖炉のなかに、娘たちの靴が置かれていた。

 サンタクロースのプレゼントを入れてもらうためのもので、ふたりの娘の靴の中では10スー銀貨が光っていた。

 コゼットの木靴も置いてあったが、空っぽだった。

 男はルイ金貨をひとつ、木靴に入れた。