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蝸牛角上

読書メモ。あらすじ。というよりダイジェスト?

レ・ミゼラブル その28 (ビクトル・ユーゴー作 豊島与志雄訳)

少女ただひとり

 人気のない夜の小路を、コゼットは桶を抱えて進んだ。

 人家が絶え、野に出た。

 暗いさびしいひろがりが、彼女の前にあった。

「かまやしない!」

 恐怖はコゼットを大胆にした。

「水はなかったと言ってやろう」

 コゼットは来た道を引き返した。


 百歩ばかり戻ると、今度はテナルディエの女房の姿が脳裏に浮かんできた。

 夜の闇も怖いが、女房も怖かった。

 逡巡した末に、コゼットは再度きびすを返し、水を汲むために走り出した。

 走りながら、泣きたくなった。


 泉にたどりつき、水を汲んだ。

 その際、ついでにパンを買って来い、と渡されていた15スー銀貨が水の中に落ちた。

 コゼットは落としたことに気がつかなかった。


 水の入った桶は重く、帰り道は休み休みでなければ歩けなかった。

 ふいに、桶の重さが消えた。

 コゼットの後ろからやってきたひとりの男が、桶を持ち上げたのだった。

ブーラトリュエルの明敏を証するもの

 1823年のクリスマスの日の午後。

 パリーのオピタル大通りの最も寂しい所を、ひとりの男がうろついていた。

 非常なみすぼらしさと、非常な高潔さとを持ち合わせた、珍しいタイプの男だった。


 国王ルイ18世は、ほとんど毎日のようにオピタル大通りを通った。

 護衛の騎兵が、うろつく男を発見した。

「人相のよくない男がいます」

 男を追跡せよ、と命令を受けた警官が、男を追った。

 男は小路に身を隠し、警官をまいた。


 午後4時半。

 男はランニー行きの馬車に乗った。

 6時ごろにシェルに着いた。

 男はランニーまでは乗らず、そこで降りた。


 それから男は、モンフェルメイュに通ずる村道を進み、途中で野を横切り、森の中に入った。

 栗の木が立っていた。

 皮がはがれた部分に包帯として亜鉛の板が打ちつけてあった。

 男はその亜鉛の板にさわり、その木と石の山との間の地面を、確かめるように踏んだ。

 それがすむと、彼は方向を定めて森の中を歩き出した。


 コゼットが出会ったのはこの男だった。

コゼット暗中に未知の人と並ぶ

「この桶はお前さんには重すぎるようだね。

 私が持っていってあげよう」

 コゼットは男を怖がらなかった。

 男はコゼットと並んで歩き出した。


 8歳であること、母親がいないことなど、コゼットは男に訊かれるままに自分のことを答えた。

「お前さんは何という名前だい」

「コゼット」

 男はあたかも電気で打たれたようだった。


 コゼットがテナルディエの宿屋で暮らしていることを話すと、男は今夜はそこに泊まろうと言った。

「テナルディエのかみさんには女中はいないのかね」

「いません」

「お前さんひとりなのか」

「ええ。

 でも娘は二人あります」

「何をしている、その人たちは」

「遊んでおもしろがってるの」

「一日中?」

「ええ」

「そしてお前さんは?」

「私は、働いてるの」

「一日中?」

「そうよ」


 宿屋の近くまで来ると、コゼットは桶を返してくれるように言った。

「ほかの人に桶を持ってもらってるのがみつかると、おかみさんにぶたれるから」

 男は彼女に桶を渡した。