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蝸牛角上

読書メモ。あらすじ。というよりダイジェスト?

レ・ミゼラブル その20 (ビクトル・ユーゴー作 豊島与志雄訳)

官憲再び権力を振るう

「君の用事はわかっている」

 マドレーヌことジャン・ヴァルジャンはジャヴェルに言った。

 ジャヴェルはヴァルジャンの首筋をつかんだ。

「市長様!」

 ファンティーヌが叫んだ。

 ジャヴェルは、歯をすっかりむきだした恐ろしい笑い方をした。

「もう市長さんなどという者はここにいないんだぞ!」


 ヴァルジャンは、小声でジャヴェルに何か言った。

「大声で、大声で言え!」

「3日の猶予を与えてください!

 このあわれな女の子供を連れに行く3日です!」


 ファンティーヌはぎくりとした。

「では子供はここにいないのかしら!

 マドレーヌ様、市長様!」


 ジャヴェルは足を踏み鳴らした。

「静かにしろ!

 もうマドレーヌさんも市長さんもいないんだぞ。

 泥棒がいるだけだ。

 そいつをいま俺が捕まえたんだ」


 ファンティーヌは飛び起きた。

 苦悶のうちに両腕をさしのべ、痙攣的に両手を開き、溺れる者のようにあたりをかき回し、それからにわかに枕の上に倒れた。

 口はぽかんと開いて、目は開いたまま光が消えていた。

 彼女は死んだのである。


 部屋の片隅に、古い鉄の寝台があった。

 ヴァルジャンは、その寝台から太い鉄棒を瞬く間にはずした。

 鉄棒をつかんで、ジャヴェルを見つめた。

 ジャヴェルは、扉のほうへさがった。


 ヴァルジャンはジャヴェルを牽制しながら、ファンティーヌの亡骸に近づき、身をかがめてなにかを囁いた。

 サンプリス修道女は、ファンティーヌの顔に、言葉に尽くしがたい微笑が上ってきたのを、はっきりと見た。

 ヴァルジャンはファンティーヌの姿をととのえ、目を閉ざしてやった。

 それからジャヴェルのほうへ向いた。

「さあ。

 どうにでもしてもらいましょう」

ふさわしき墳墓

 ジャヴェルはヴァルジャンを市の監獄に投じた。


 マドレーヌ市長の逮捕は、モントルイュ・スュール・メールの町に、非常な動揺を起こした 。

 わずか2時間足らずのうちに、市長がなしたすべての善行は忘れられてしまった。

 彼はもはや「1人の徒刑囚」に過ぎなくなった。


 その日の晩、マドレーヌ市長の屋敷。

 市長に仕える老婆の前に、マドレーヌ市長ことジャン・ヴァルジャンは現れた。

 牢を抜け出してきたのだった。

 彼はサンプリス修道女を連れてきてくれるように老婆に頼み、自室に入った。

 服を着替え、ミリエル司教にもらった銀の燭台を荷物にまとめた。


 サンプリス修道女がやって来た。

 ヴァルジャンは、財産の整理を頼む司祭宛ての手紙を彼女に託した。


 家の中が騒がしくなった。

 ジャヴェルが捜索に来たのだ。


 ヴァルジャンは部屋の隅に隠れた。

 部屋に踏み込んできたジャヴェルは、サンプリス修道女にヴァルジャンのことをたずねた。


 ジャヴェルは、あらゆる権威を尊敬していた。

 彼にとって宗教上の権威は、すべての権威の第一なるものだった。

 そしてサンプリス修道女は、模範的な修道女だった。

 彼女が生涯に一度も嘘をついたことがないことは有名で、もちろんジャヴェルも承知していた。


「この部屋にはあなた1人ですか」

 ジャヴェルの質問に、サンプリス修道女は「はい」と答えた。

「ヴァルジャンを見かけませんでしたか」

「いいえ」

 サンプリス修道女はためらうことなく二度、嘘を言った。


 ジャヴェルは、深くおじぎをして出て行った。


 ヴァルジャンはモントルイュ・スュール・メールから去った。


 ファンティーヌの亡骸は、ヴァルジャンにあとを託された司祭によって共同墓地に埋葬された。