読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

蝸牛角上

読書メモ。あらすじ。というよりダイジェスト?

レ・ミゼラブル その18 (ビクトル・ユーゴー作 豊島与志雄訳)

否認の様式

 シャンマティユーが最後の申し開きをした。

「私はパリーで車大工をしていた。

 バルー親方の家でだ。

 非常につらい仕事だったが、日に30スーしかもらえなかった。

 バルーさんなら私を知っている。

 バルーさんに聞いてみなさい」


 裁判長は言った。

「車大工の親方バルーという者を召喚したが出頭しなかった。

 破産して行方がわからないのだ。

 次の二つの点を明瞭に説明せよ。

 ピエロンの果樹園の壁を乗り越え、枝を折りリンゴを盗んだか、否か。

 そのほうはジャン・ヴァルジャンであるか、否か」


 シャンマティユーはどちらも否定した。


 検事は、4人の証人のふたたびの召喚を求めた。

 ジャヴェル警視は公用のため、すでに町を去っていた。

 残りの3人が証言した。

 3人とも囚人で、ヴァルジャンとは牢のなかで顔見知りになっていた。

 3人ともが、シャンマティユーをヴァルジャンだと証言した。


 そのとき、裁判長のすぐそばで、3人の証人たちへ叫ぶ声があった。

「こちらを見よ!」

シャンマティユーますます驚く

 叫んだのはマドレーヌ市長だった。

 彼は言った。

「私がジャン・ヴァルジャンである」


 彼は言った。

「私が問題の罪人です。

 私は違った名前のもとに身を隠した。

 富を得た。

 市長になった。

 私を捕縛していただきたい」


 そして3人の囚人のほうを向いて、一緒に牢で過ごしていなければわからない彼らの特徴について言い当てた。


 マドレーヌ市長ことジャン・ヴァルジャンは微笑した。

 それは勝利の微笑であり、絶望の微笑でもあった。

「よくおわかりでしょう。

 私はジャン・ヴァルジャンです」


 誰もヴァルジャンに質問しようとせず、また彼を捕えようともしなかった。

 判事も検事も憲兵も、自分の職分を忘れていた。


「私はこれ以上、法廷を乱すことを欲しません」

 ヴァルジャンは言った。

「諸君は私を捕縛されぬゆえ、私は引き取ります。

 私はいろいろなすべき用を持っています。

 検事殿は私がどういう者で、どこへ行くかを知っていられる。 

 いつでも私を捕えられるでしょう」

 彼は法廷を出て行った。


 シャンマティユーは釈放された。