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蝸牛角上

読書メモ。あらすじ。というよりダイジェスト?

レ・ミゼラブル その16 (ビクトル・ユーゴー作 豊島与志雄訳)

睡眠中に現われたる苦悶の象

 午前3時になっていた。

 マドレーヌ市長ことジャン・ヴァルジャンは、もう5時間も部屋の中を歩き回りながら悩んでいた。

 彼は椅子に座り、居眠りした。


 奇妙な夢を見た。

 夢の中で出会った男が、ヴァルジャンに言った。

「君はどこへ行くんですか。

 君はもうずっと前から死んでるということを知らないのですか」


 目を覚ますと、スコーフレールに頼んだ馬車が到着していた。

故障

 モントルイュ・スュール・メールへやって来た郵便馬車が、町へ入ろうとするとき、飛び出してきたヴァルジャンの馬車に突き当たった。

「馬鹿に急いでやがるな!」

 郵便夫は言った。


 なぜ急ぐのか?

 ヴァルジャンも知らなかった。

 彼はまだ、何も決心していなかった。

 とりあえず馬車が来たのでアラスまで行くことにしたが、アラスに着いてシャンマティユーの裁判を見たとき、自分がどうするのか、自分でもわからないままだった。


 2時間で5里走って、馬を休ませるために宿屋の前に止まった。

 馬丁がヴァルジャンの馬車を見て、言った。

「これではあと半里も行けませんよ」

 郵便馬車との衝突で、ヴァルジャンの馬車は故障していた。


 ヴァルジャンは車大工を呼んでもらって、修理を依頼した。

 車大工は、修理には一日かかる、と言った。

 いくら金を積んでも、それ以上早くは直せないという。

 貸してくれる馬車も、売ってくれる馬車もないという。


 ヴァルジャンは喜びを感じた。

 ヴァルジャンは、できるかぎりのことをした。

 馬車の故障は、彼の力ではどうすることもできない。

 これは神の意志だ。

 できるかぎりのことをして、それでもダメだったのだから、ヴァルジャンに非はない。

 ジャヴェル警視の訪問以来、ずっと心臓をしめつけていた鉄の手がゆるんだような思いがした。


 ところが、ヴァルジャンと車大工との話を、立ち聞きしていた子供が、老婆を連れてきた。

 老婆は、貸せる馬車がある、と言った。

 ヴァルジャンは馬車を借り、アラスへと再出発した。


 次の宿場のサン・ポルまで行くのに、四時間かかった。

 ヴァルジャンはひどく空腹なことに気づいた。

 食事を注文し、パンをかじった。

 一口かじっただけで、それ以上はのどを通らなかった。


 馬車を走らせ、タンクの村に入った。

 村から出たとき、道路工夫が言った。

「道路普請中で、これから先は行けませんぜ」

 ヴァルジャンはタンクの村に戻ると、馬をもう一頭借り、道案内兼御者も雇った。


 道は驚くほど悪くなった。

 道のくぼみに一揺れしたかと思うと、馬車の横木が折れた。

 ヴァルジャンは木の枝を折り、ナイフで削って横木にした。


 遠くの鐘楼が夜の7時を告げた。

 8時にはアラスに着ける、と御者は言った。

サンプリス修道女の試練

 一方、ちょうどその頃、ファンティーヌは喜びのうちにあった。


 前夜、彼女はきわめて険悪な一夜を過ごしていた。

 激しい咳に高熱、それからまた悪夢。

 朝、医者が診たときには意識が乱れていた。


 ヴァルジャンことマドレーヌ市長は、毎日午後3時に彼女に面会した。

 彼女はそれを心待ちにしていた。

 しかし今日は5時になっても市長は現れなかった。

「もう私は明日逝ってしまうのに」

 ファンティーヌはそう呟いて、ほとんど息だけで古い子守唄を唄った。


 ファンティーヌを看護するサンプリス修道女は、雑仕婦をやって市長のことを尋ねた。

 帰ってきた雑仕婦は、市長が朝早く町を出て、帰りは明日になるらしいことを伝えた。


 ファンティーヌは喜んだ。

「コゼットを引き取りに行ってくだすったんだわ。

 明日、明日。

 明日、私はコゼットに会える」