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蝸牛角上

読書メモ。あらすじ。というよりダイジェスト?

レ・ミゼラブル その6 (ビクトル・ユーゴー作 豊島与志雄訳)

彼の所業

 ミリエル氏の寝室の扉は、指で押しただけで開いた。

 扉のひじ金が音を立てた。

 とても大きな音のように聞こえて、ジャン・ヴァルジャンは肝をつぶした。

 しかし、誰も目を覚まさなかった。

 

 ミリエル氏は寝台で眠っていた。

 その顔つきは、満足と希望と至福とに輝いていた。

 

 ジャン・ヴァルジャンは、ミリエル氏の姿に驚いた。

 その信頼しきった様子は彼を恐れさせた。

 数分間、ヴァルジャンの目はミリエル氏から離れなかった。

 

 月の光が、暖炉の上の十字架像をぼんやり見せていた。

 それは両手を開いて、一人には祝福を与え、一人には赦しを与えるために、その二人を抱かんとするかのようだった。

 

 ヴァルジャンは、ミリエル氏の枕頭の戸棚を開き、銀食器を手に入れた。

 そして虎のように壁を飛び越え、姿を消した。


司教の働き

 翌朝。

 ミリエル氏は、銀食器を入れていた籠が、庭に落ちているのをみつけた。

 

 マグロアールが、騒いだ。

「あの男が盗んだのでございますよ」

 

 ミリエル氏は言った。

「あれは貧しい人たちのものなんだ。

 あの男は、明らかに一人の貧しい人だったではないか」

 

 木の食器でミリエル氏が朝食を食べていると、憲兵たちがヴァルジャンを連行して来た。

 

 ミリエル氏は言った。

「よくきなすった!

 ところでどうしなすった。

 私はあなたに銀の燭台もあげたのだが。

 なぜ食器といっしょに持って行きなさらなかった?」

 

 ミリエル氏は憲兵からヴァルジャンを解放し、銀の燭台も手渡すと、言った。

「忘れてはいけませんぞ。

 この銀の器は、正直な人間になるために使うのだと、あなたが私に約束したことは。

 あなたはもう悪のものではない。

 善のものです。

 私はあなたの魂を、暗黒な思想や破滅の精神から引き出して、神にささげます」

 

プティー・ジェルヴェー

 ジャン・ヴァルジャンは逃げるようにして町を出た。

 空腹も感じずに昼の間中、歩き回った。

 太陽が没しようとするとき、藪のうしろに座った。

 

 十歳ばかりの少年が小道をやってきた。

 

 少年は貨幣をお手玉にして遊んでいた。

 40スー銀貨が手からすべって、ヴァルジャンの所に来た。

 ヴァルジャンは銀貨の上に足を乗せた。

 

 少年の名はプティー・ジェルヴェーと言った。

 銀貨を返してほしいというプティーを、ヴァルジャンは荒っぽく追い払った。

 プティーは泣きながら去った。

 

 しばらくして、ヴァルジャンは我に返った。

 地面に40スー銀貨を発見すると、言った。

「これは何だ?」

 ヴァルジャンは銀貨を拾うと、プティーを追いかけた。

 

 ヴァルジャンは馬に乗った牧師と出会い、プティーのことをたずねた。

 牧師は知らなかった。

 ヴァルジャンは5フランの貨幣をふたつ、牧師に渡した。

「貧しい人たちに施してください」

 重ねて問いかけても、やはり牧師はプティーを知らなかった。

 ヴァルジャンは5フラン貨幣をもうふたつ、貧しい人たちのために、と牧師に渡すと、

「私を捕縛してください。私は泥棒です」

 牧師はおびえて逃げてしまった。

 

 ヴァルジャンはプティーを探した。

 だがみつからなかった。

 ヴァルジャンはやがて力尽きてうずくまった。

 

「俺はみじめな男だ!」

 

 ヴァルジャンは泣き出した。

 長い間泣いた。

 

 泣いた後に、彼が何をなし、どこへ行ったか。

 だれもそれを知らなかった。

 ただその夜。

 ミリエル氏の家の前に、一人の男が祈るようにひざまずいているのを、通りかかった馬車屋が見かけたという。